9.ルーティンの力、場の力、礼の力
こんなアイディアがあります。子供の部屋のドア(外側)に小さなホワイトボードをぶら下げておく。そのホワイトボードに「今日は数学のテキスト10ページから13ページまでやる!」と書いてからその子は部屋に入ります。
そうしたらその子は部屋に入ってまず何をするでしょうか。それで漫画を読み始めたらなかなかつわものです。確実に勉強にとりかかることでしょう。そして、勉強が終わって、部屋から出るときにホワイトボードを消そうと思ってみると、お母さんの字で「がんばれ!!」とか書いてあったりしたら、それだけでその子の努力に対しての承認となります。
よくスポーツ選手がやる、決まった動き、ルーティンのことを考えてみましょう。野球のピッチャーが投げる前に行う、腕をぐるぐる回す動き、バッターがバッターボックスでピッチャーの方にバットを向ける動き、サッカー選手がピッチに入るときにラインを右足で飛び越える、試合前に音楽を聴く、など何かは聞いたことがあると思います。似たようなことをやっているかもしれません。緊張する場で手に人と書いて飲み込むとか靴下は右足からはくとか。一昔前はジンクスと呼んでいたことと似たようなことです。集中するために毎回行う決まった行動のことです。
勉強でもこれを利用することはできないかと考えたわけです。子供が自分でこのルーティンを自力で理解して、勉強に使ってくれるとうれしいですが、別に集中したくもない時にわざわざ自らルーティンを作るでしょうか。小学生だったらできるでしょうか。であれば、そのルーティンを作ってあげるのです。上記のホワイトボードの例はルーティンを作ってあげる一つの例です。
子供たちは、学校では挨拶をして授業を始めるというルーティンをやっています。しかし、これはルーティンとしての役割を半分しか担ってくれません。なぜなら、これは自ら進んでやっているものではないからです。そこに、ルーティンとしての役割を100%つけるためには、自らやるという行動が伴わないとなりません。
しかし、半分の役割とは言え、授業の挨拶をすると教室は静かになり、生徒は先生の話を聞くようになります。これは日本人の心ですね。「礼の力」です。いい加減ではない、しっかりとした礼をすると、日本人の集中力は一気に高まります。家庭で実践するのは難しいことですが、他で子供が礼をしたときに、集中力を高められるよう、礼の大切さは伝えておかなければなりません。
そして、「場の力」です。よく、うちの子は勉強をリビングでやります、リビングは家族でテレビをつけているので、ながら勉強になっていないか心配です、というお話を聞きます。確実にながら勉強になっていることでしょう。子供にとってリビングが落ち着く場なのは当然です。みんないるし、家族の会話も聞けるし。でも、あなたも経験がありませんか?お寺に行ったら急に厳かな気持ちになる、試合会場に入ったら急にやる気になる、畳の部屋に入ると急に落ち着く、病院に行くと病気になった気がする、トイレに入るととても落ち着く、なんて経験がありませんか?
これは場の力なのです。それを勉強でも利用するとしたら、勉強に適した場を提供してあげることが必要なのです。この部屋に入ったら、よし勉強するぞ、と思える場です。家庭で、勉強のためだけの部屋を作ることは難しいです。であれば、どうすればいいのか。その場、というか、状況を作ってあげるのです。それが、学校の教室内で行われる挨拶だったりするのです。休み時間を過ごしていた生徒たちも、挨拶をすると、同じ教室という場であっても、勉強する場として認識するから授業に集中するのです。(最初は)
だから、自分の部屋も、くつろぐ場という状況と勉強する場という状況を作ればいいのです。そのメリハリがない状態で勉強にするっと入ってしまうから、リビングでの勉強はよくないのです。自分の部屋の敷居をまたぐ瞬間に、これをまたいだら勉強するぞ、という意識を作ることが重要です。でもそれを自らやりなさいと言ってもなかなかやれる子供はいないですね。
そこで、最初のホワイトボードの例なのです。ドアの外側にぶら下がっているのが重要です。部屋に入る前に、目標を書くから、ドアを開けて敷居をまたぐのに心の準備ができます。ここをまたげば勉強するぞ、という気持ちを自ら自然と作ることができるのです。
一つのホワイトボードという例ですが、他にも考えればいくらでも考えられることだと思います。一つひとつのことに、意味を持たせられるようにしましょう。
8.目標設定の力
ケーススタディをたくさん見ていきたいと思っていますが、もう少し基礎知識を持っておきましょう。今回は目標設定の力についてです。
何事にも目標があります。社会人である私たちも仕事の目標があります。小学生にだって、将来ピアニストになるという目標を持つ子はたくさんいるでしょう。ただ、目標を捉える前に、目標と目的の違いをはっきりとさせておきましょう。
目的:何のために勉強するのか
目標:テストで満点をとる
目的の方が大きくて一つのイメージです。目標は一つではなく具体的なものです。
さて、子供に勉強をするというモチベーションを与えるためにはどちらが大事なのか。答えはどちらも大事ですが、子供の視野では目的を捉えるのはなかなか難しいです。だから、力を発揮するのは目標の方でしょう。
ここでもう一つ知っておいてほしいことは、
目標と承認はセット
ということです。「承認」という言葉の捉え方は難しいです。心理学的に認めることのような大きな話ではなく、「目標達成できたね。」と褒めることも承認に入りますし、何かごほうびがあることも承認と捉えてください。
目標を設定するだけでは足りないし意味がありません。承認がないと目標は立てる意味さえないと言っても過言ではありません。
目標が大事だという言いましたが、目標の話をする前に「目的」の話が必要です。
「何のために勉強するのか」
誰もが子供のころに持った疑問です。親として答えられますか?
学校の先生でも塾の先生でも明確な答えを持っている人はいません。明確にならないほどいろいろな答えがあるし、人によって考え方は違います。
「将来の夢をかなえるため」
「将来苦労しないため」
「お金持ちになるため」
「親の後を継ぐため」
「生きる力をつけるため」
「将来食べていくため」
「みんながんばっているから」
「受験のため」
どれも正しいのです。具体的ではないし、きれいごとのようなものもあります。こんな抽象的な概念的なものが子供の口から出てきたら逆に怖いぐらいです。でも、子供たちは何のために勉強しなければならないのかわからないのです。多くの子供たちがわかっていない、というか誰からも教わってないから、手探り状態で小さな目標ばかり与えられて、時には怒られ、強制的にやらされているのです。
よく考えてみるとおかしなことです。自分の行動原理がわからずに勉強しているようなものです。意味もなくジョギングはしないですよね?ダイエットするから走るのですよね?
勉強の目的を子供に伝えていないのが悪いのです。それは学校の先生がやってくれる?塾の先生がやってくれる?
よく聞きませんか?親は学校の先生なのに子供はあんなにぐれちゃってって。学校の先生だって人間です。部活の顧問をやっていたら、忙しい営業マン以上に忙しい人たちです。塾の先生が勉強の目的を教えてくれる?塾の先生の中にはずぶの素人だっていますよ。教員免許を持ってない人だってたくさんいますよ。まぁ教員免許なんて形だけのようなものですが…。
勉強の目的は、親が教えないと誰も教えてなんてくれません。しかも、その年齢に合った、その年齢でも理解できる言葉で教えてあげなければなりません。勉強ができるかできないかは、本人のせいでも、学校のせいでも、塾のせいでもありません。親の責任なのです。だけど、目的は抽象的なもの。子供に語りかけるだけのものになります。だから一貫してなくてもいいのです。変わっていってもいいのです。目的がありさえすればそれでいいのです。
さて、目標の話でした。目標設定がモチベーションになることは大丈夫ですね。であれば、目標設定を適切に行うことが重要です。
●目標設定のポイント
・期限があること
・具体的な数字であること
行動目標も大事ですが、期限と数字は重要です。なぜなら、コーチングの場合はその場で行動に起こせることが重要だからです。今何をすべきかを本人に決めさせるためにはきわめて具体的でなければなりません。
●期限設定のポイント
・3ステップの法則
目標はステップがあった方がいいと思います。目標が大きすぎても、期限が先過ぎても厳しいです。ただ大きな目標は大きなモチベーションになります。でも、大きな目標は具体的な行動には結び付きづらいという側面もあります。
たとえば、子供が40歳までに一戸建てを買うなんて目標を立てるのは現実的ではないですよね。でも、その子は一戸建てはがんばらないと買えないんだと理解しています。だから将来お金を稼げるようになろうとがんばれるのです。
モチベーション効果の大きな大目標と具体的行動のおこしやすい小目標を持たせたいですね。
そこで、目標3ステップの法則の提案です。大・中・小の目標を立てるのです。まずは大から。期限は遠いですが、モチベーションになるようなワクワクするような目標です。それに対して、途中経過のような中目標です。これはワクワクを出しづらいので、目標達成時にごほうびがあるようなものにすると中だるみしません。そして、今すぐ行動に起こせる小目標です。
具体的に例を出してみましょう。期限と具体的数字が必要でした。目標を立てるときはもちろん大目標からです。ワクワクした方がいいからです。
大目標:2020年3月に○○高校に1位で合格
中目標:2019年3月に○○県模試で100番以内に入る。達成時に新しいゲームを買う
小目標:明日までに数学のテキストの10ページから20ページを終わらせる
こんな感じです。こうすると、小目標は毎日変えていかなければなりません。だったら毎日変えていきましょう。昔からよくある手法をとればいいのです。大目標、中目標を紙に大きく書いて壁に張ったりするアレです。小目標は、100均で小さなホワイトボードを買ってくるといいです。部屋のドアとかにぶら下げておくのです。本人は、毎日そのホワイトボードに今日の目標を書いてから部屋に入るのです。
次回は、そんな場の力について書きたいと思います。
7.ここまでの実践
さぁ、ここまで学んだことを実際に使うとなると、どうでしょう。まずは復習から。
1.「勉強しなさい」と言わないと決心する
→決心できていますね。
2.「目標」を決める
→目標は、自然と子供が勉強に向かうことでした。
3.やる気スイッチなどという形式的なものに逃げない
4.動機づけ
→大事なのはここからです。
5.やる気維持のための文字によるメッセージ
6.やる気維持のための言葉遣い
ということで、まずは子供が勉強に向かうように仕向けましょう。今、目の前でテレビを見て大口をあけて笑っている子が目の前にいます。勉強をしに行くように仕向けましょう。
夜の7時10分です。
「○○ちゃん、そろそろ勉強する時間だね。」
「えー、もうちょっとぉ。」
「わかった、じゃあ、8時でこの番組が終わったらね。」
「はーい。」
→海外で使う値切りのテクニックを応用して交渉します。1000円のものを値切りたいときは、まずは極端に低い金額を提案します。相手が折れてきたら少しずつ値段を上げて、600円ぐらいまで値切る技術です。8時に勉強させたいのであれば、7時過ぎには声をかける。7時過ぎであれば8時に勉強という約束がしやすいのです。
「今日はなんの勉強をするの?」
「まだ決めてな―い。」
「じゃあ決めようか。算数でわからないところはあった?」
「うん。算数は難しいんだよね。」
「あら、算数のどんな問題が難しいの?」
「文章題。」
「文章題ね、ママも子供のころ苦手だったな。○○ちゃんがわかってくれると教えてもらえるね。」
「でもわかんないからこっちが教えてもらいたいんだよ。」
「そっかー。じゃあ、わかるようになるために何をしていこうか。」
「うーん。教科書の問題やってみようかな。」
「そうだね。でもいきなり問題やっても難しいんじゃないの?」
「じゃあ、教科書を読んでみる。」
→ここでは、教科書を勉強の道具として使うというところに持っていくために話していました。一言、教科書を読みなさいと言うのは簡単です。でも私のコーチング理論は、自分の口で教科書を読むと言わせたいのです。読みなさいと命令された子供と自分から読むと決めた子供ではどちらが効果が高いでしょうか。命令口調を使わないというテクニックですね。
「勉強進んでる?」
「うん。」
「教科書読んでわかった?」
「うん。わかったよ。」
「じゃあ難しい問題もできたんじゃない?」
「そう。学校でわからなかった問題がわかったんだよ。」
「すごいじゃん。どんな問題だったか見せて?」
「これ。」
「これは難しいね。これがわかったのはすごいね。じゃあこの調子で次の問題もがんばろうね。あとでごほうび持ってきてあげる。」
→都合よく子供が動いてくれているように見えますが、実際にやってみてください。同じような表現にはならないとは思いますが、あくまで狙い通りに動かすことです。そして一つの問題で終わらないように次に向かわせることです。
こんなケーススタディはたくさんの例を見ていきたいですね。一つひとつのテクニックと言うよりかは体系的にわかった方が応用もしやすいと思います。あくまで相手がいることで、しかも子供なので予測不能な返事が来るかもしれません。そんないろいろなことに対応できるように理論を身につけなければなりません。
がんばりましょう。
6.やる気維持のために~声かけ・口調編~
文字でのコーチングでも意味を持たせられれば効果があると書きましたが、メインはやはり声かけです。しかし、その声かけも口調によって効果が変わってきます。
また、公文のころに戻りましょう。
あるとき、私は公文の経営者の先生から言われました。「口調が冷たい時があるから気をつけて。」と。私は冷たい気持ちなんて持っていませんでしたし、まさか自分の口調が冷たいなんてそれまで考えたことすらありませんでした。しかも、具体的にどんな時が悪いのか指摘されず、気をつけなさいと言われただけなので、どうしていいかわかりませんでした。まずは友人に確認するしかありません。普段話していて、僕の口調って冷たいと思う?と聞いてみました。何人かに聞きましたが、持つべきものは友人だと思いました。みな率直に意見を言ってくれたのです。言葉が乱暴な時がある、突き放すような語尾の時がある、鼻で笑うような時がある、などなど率直に言ってもらえました。あ、自分はそんなに悪い口調だったんだと気づくことができました。でも、その時は「そんなことない。そんなことない。」と言っていました。友人から、そう思われていたとなると、なかなかショックですからね。まずは突き放したり鼻で笑うなんて気持ちはまったくないよ。」と言って回らなければならないので、関係ない友人にもまずは言い訳して回りました。「今まで言葉が悪かったりしたかもしれませんが、悪気はありませんので。」「はじめまして。言葉が悪い時があるかもしれませんが、許してください。」のように言って回っていました。自分でも少し信じられない部分はあって、なかなか客観的になれませんでした。でも現実はいつか必ず受け入れなければならない時が来るのです。自分でも覚悟を決め、自分の話しているときの口調を客観的に見るようにしました。
客観的に見る方法は、自分が発した言葉を頭の中でもう一度繰り返すのです。もちろん相手が返事をしている間にです。それぐらいの処理は人間だれでもできます。慣れてくると、言葉を発する前に頭の中で処理できるようになります。この口調だったら相手にどのような影響があるか事前に考えてから言葉を発することができるようになります。
まずは徹底的に自分で聞いてても嫌だなと思うところを直していきました。乱暴だったり突き放したりという口調は、語尾までしっかりと発音することで直すことができました。「はぁ」ではなく「はい」というようなことです。鼻で笑うなんてことがあるのかと思いきや、実はあったのです。これは話相手からしたらとても嫌だったと思います。私としては相づちの、はいとかうんぐらいの気持ちで鼻息を出していたのですが、これは鼻で笑っているように感じます。
実は、先生と呼ばれる立場の人は、普段子供の相手をしているためか、こういうくせの人は多いのです。子供をバカにしている人間もいるし、私みたいに意識しないで使い続けてしまったかなのですが、塾や学校の先生には前者が存在するのです。他にも先生と呼ばれる人の口ぐせはたくさんあるのですが、また別の機会にしましょう。
とにかく私は自分の口調を直しました。だからって、何かが劇的に変わるわけではありません。私自身も何かが劇的に変わることを期待してやっていたわけではなく、ただ、自分として直したいと思ったから直しただけです。
しかし、気づく人は気づくのです。私に口調が冷たいと注意してくれた先生が、あるとき言ってくれたのです。
「私は、子供と話すときに意識していることがあります。それは、一つは否定の言葉を多用しないこと。~ない、という言葉はあまり使わないようにしています。もうひとつは、子供にがんばれという言葉はあまりかけません。がんばろうと言います。」
きっと、私が意識をして口調を変えたことに気付いてくださったのでしょう。次のステップとして、私はもっと考えて言葉を使っていますよ、あなたももっと考えなさいね、と言われたように感じました。
否定の言葉を使わない、がんばれではなくがんばろう、というのはとてもわかりやすい簡単な具体例を提示してもらえたと思いました。
「だめ」「~ない」は多用すると相手はめげていきます。責められているように感じます。
「がんばれ」は突き放すときに使います。「がんばろう」だと、一緒にいるよというメッセージを言葉の裏側に乗せることができます。
この話から、私は言葉というものには、表に出てこない裏の側面があるのだと気付きました。私のコーチング理論ではこの「裏のメッセージ」というのが大きなポイントとなります。子供を自然と勉強に動かしていくためには、子供の無意識に働きかけることが重要なのです。
5.やる気維持のために~声かけ・文字編~
やる気を維持するためには声かけをし続けなければなりません。よく、「勉強してるの?」という声かけはするのですが、反抗的な返事が返ってきてケンカになる、とか、「勉強しなさい。」という声かけしかしてないのですが、これでいいのでしょうか?ということを言われることがあります。
声かけはしていかなければ、維持はできません。ピアノと一緒です。練習し続けなければ下手になってしまうのです。やる気も、声かけしていかなければ維持できません。
ただし、「勉強してるの?」「勉強しなさい。」という声かけをずっとしているのでは意味がありません。理由は、どちらも同じ内容だからです。毎日同じことを言っていては効き目がないからです。
では、どんな声かけのセリフがいいのか。それは次の機会にしましょう。
今回はその前段階です。どんなにすごいセリフを考えて言ったとしても、口調が悪かったら子供は聞く耳を持ちません。だから、セリフの前に、口調について書いておきましょう。
私が18歳で塾に関わったのは、公文の丸つけのアルバイトです。公文は教えないのが公文式なので、基本的にはひたすら丸つけをするのですが、生徒が持ってきた答案を高速で丸つけし、間違いがあればその場で返して即とき直しをさせるのです。すべて丸になるまで生徒は帰れません。丸つけする側は、その場で生徒が待っているのでとにかく速いことが重要です。教えるという関わりがない以上、生徒に対しては声かけぐらいしかできることはありません。塾講師としての教える技術は身につきませんでしたが、それ以上に大切なものをここで学ぶことができました。すべての公文がそうだとは言えません。私はたまたまものすごくいい指導者に出会った幸運者だと考えています。
その公文を経営していた先生は、当時幼稚園の子がいる主婦でした。まだコーチングなんていう言葉もない時代です。18歳の若者にとっては、子育てをしている先生の言葉はすべて受け入れやすい先輩の言葉でした。私がこれから書くことは、公文としてやっていることなのか、その先生の理論なのかはわかりませんので、公文で学んだとは書きません。あくまでその先生から学んだとしか言いようがありません。たくさん学んだのと、ケーススタディではないので、事細かに書くわけではありません。他にも応用できそうな例を出していくことにします。
まず、一番最初に言われたこと、○や100点は大きく書き、×や100以外の点数は小さく書く。声かけではないですが、メッセージを伝えるという観点ではこれもコーチングの一つです。子供の心理に与える影響を考えているのです。私はなるほどと思い、大きすぎると言われるぐらい大きく書きました。公文から離れてもずっと続けていました。そうすると、他の人はどうなのかとあるときに気になってしまったのです。平気で×を大きく書いている先生が塾にも学校に多い。たいしたことではないのかもしれませんが、私は、若いうちに学んでいてよかったと思いました。子供に与える影響に差はないかもしれないけど、少なくとも、この人たちよりは子供の心理というものを考えて行動していると実感できるのです。大学で教職課程を履修していれば、教育心理学は学びます。しかし、そこで学ぶことはすべて理論なのです。人間の不思議なところは、理論を実践で生かせないところです。理論では成績優秀な人でも、実践となると全然違うことをやっている。生かせないなら理論を学ぶ意味はないのです。私は教職課程を履修し、教員免許も持っていますが、まだ何の理論も学ぶ前に、この師匠とも呼べる先生に出会ったので、実践から入ったようなものです。実践で失敗しながら学び、あとから理論を学ぶ。あ、そういうことだったんだと後から気付く。その方が使える理論だと思います。とにかく、ここで言いたいのは、何か書くにしても、工夫をすれば、子供に心理的なメッセージを伝えることはできるということです。勉強を見るときに、上の例と同じように大きな花○をつけてあげるとか、スタンプをつけてあげるとかはできますね。これに意味を持たせるのです。スタンプやシールは多くの先生が実践しています。そして多くの先生が意味を持たせることができていません。意味を持たせるとはどういうことか。まさか、前の先生がやっていたから真似してスタンプを押しているなんていうアホな先生はいないと信じたいですが、きっといるのでしょう。そういうレベルの低い人はここでは無視します。誰でもスタートはスタンプを押せば子供が喜ぶから、自分が子どもだったとき親や先生がやってくれてうれしかったから、という意味を持って始めているはずです。どんなことにもスタートには意味があるのです。しかし、それが繰り返しになってしまうと、だんだんとその意味が薄れていってしまいます。子供からしても、がんばったらスタンプがもらえると最初はがんばります。でも、毎回同じスタンプだったり、スタンプがもらえなくなってくるとどうでもよくなってしまうのです。意味を見いだせなくなってしまうのです。ガリガリくんはたまに当たるからいいのです。いつも当たってたらおもしろくないのです。スタンプに意味を持たせるのであれば、毎回違うスタンプにしたり、たまにシールにしてみたり、絵を描いてあげるのもありです。スタンプがつかない子にもたまには残念スタンプみたいなものをつけてあげればいいのです。とにかく同じことをいつまでも繰り返さないことです。
留守番する子供にメモを残して出かけたりということもあるでしょう。そんなメッセージにも、意味を持たせるとおもしろくなります。冷蔵庫におやつが入ってるよ。とただ書かれたメモ。冷蔵庫におやつが入っているよ、絵。みたいに絵がついているメモ。子供はどちらをよく見るでしょうか。後者ですよね。後者の特に絵を見ますよね。だったらその絵に意味を持たせるのです。おやつがケーキならケーキの絵を描きましょう。子供はおやつを食べるという日常的な行為に、ケーキを食べるという特別な意味を見出すのです。絵が苦手なら、冷蔵庫に???が入っているよ。みたいなメッセージにしてもいいです。絵や記号という見慣れないものを入れるのです。子供からしたら、もう冷蔵庫を開けるのと宝箱を開けるのが同じぐらいのワクワク感です。
これも毎回は同じ手が使えるわけではないので、要注意です。工夫を凝らしてください。それはこちらとしても楽しいはずです。
ちなみに私なら、「冷蔵庫に???が入っているよ。るすばんのごほうびね。」と一言添えます。そうすると、子供は留守番に意味を見出し、使命感まで持ってくれます。使命感を持った子は留守番の間に皿洗いとか勝手にやってくれるかもしれません。そんな時も、ありがとうと感謝の言葉をかける、すごいねと褒める、あなたなら当たり前だねと認める、などいろんなことができます。そんな時も、一言、「ありがとう。だったらまた留守番をお願いしてお母さんは出かけちゃおうかな。」と添えると、使命感は長続きします。今回の行動への感謝、褒め、認め、だけで終わらずに、次回に向けてひとこと言っておくのです。子供の心理には、今回の感謝、褒め、認めだけだと、そこで完結しますが、次回に向けてひとことあると、よし、次もがんばるぞという働きかけになるのです。
4.動機づけ
「モチベーション」です。
よく、スポーツの監督や指導者と言われる立場の人を指して、「モチベーター」ともいいます。つまり動機づけをする人、ということです。
勉強の動機づけの前に、わかりやすくイメージできるようにスポーツの世界で見てみましょう。日本のスポーツ界はまだまだ根性、異常な練習量、感動物語というのを求めてしまうので、あまり参考になりません。現実、指導者としての訓練もせずに引退した有名選手がすぐに監督になったりします。高校野球などでも、泥にまみれて練習しましたというような感動物語がもてはやされます。そういうのも大事です。勉強でもスポーツでも最後は根性ですから。ここでは少し見方を変えて、海外のスポーツから学んでみましょう。
あるサッカーチームに、スペシャルワンというぐらいもてはやされた監督がやってきました。なぜスペシャルワン、特別な唯一無二の人という意味ですが、と呼ばれるのか。それは、以前にもそのチームの監督をやっていて、優勝に導いている監督だからです。その後もあらゆるチームで優勝を経験しました。監督としてこれ以上ない人材です。その監督が戻ってくるということでファンは歓喜しました。
しかし、もちろん選手は当時のままではありません。もし私なら、パフォーマンスを見せるのは選手なので、まずは選手との人間関係を築くところから始めますが、監督が注目されてちやほやされると、うまくいきませんでした。監督が独裁者のように権力をもってしまうと、選手との対話がなくなってしまい、関係が悪くなり、選手のパフォーマンスは下がり、試合でも負けが込むようになり、試合後のインタビューで監督は選手批判を始めてしまいました。選手の気持ちとしてはどうでしょう。自分の悪口を監督言っている姿をテレビで見るのです。ネット上にニュースとして流れるのです。いい気分はしません。そうするとパフォーマンスは下がります。監督のパフォーマンスは上がり、次から次に選手の批判を始めました。最後にはチームの成績は下がり、任期中に解任されました。
サッカー界でモチベーターという言葉を流行らせたと言っても過言ではないぐらいの実績のある監督がどうしてここまでになってしまうのか。
新しいシーズンから監督が代わり、また優勝するチームに生まれかわりました。今度は選手はあまり代わっていません。選手はそのままで監督だけが代わった状態です。チームの戦力は監督ひとりで大きく変わったことになります。
さぁ、これを勉強という観点で、自分とお子様の関係に当てはめてみてください。もちろん、親が監督、子供が選手です。
まず、監督の失敗は、最初の段階で選手と対話しなかったこと、自分が偉いと意識してしまい独裁者のようになってしまったこと、テレビで選手批判をしてしまったことです。それを親の立場に当てはめてみましょう。お子様と会話をしていますか。将来の夢、好きな教科、なぜ好きなのか、一日勉強にどれぐらい時間を割いているか、好きな学校の先生、特技、学校で友達に何と呼ばれているか、仲の良い友人、仲の悪い友人、好きな異性、学校の教室の中での立ち位置、などなど把握できるぐらい会話していますか。なんでも、ああしなさい、こうしなさいと命令口調になっていませんか。なんでこれができないの、なんでこうしないのと怒っていませんか。他のお母さまや学校の先生に自分の子供のことを悪く言っていませんか。こういうことです。
●会話について
家で、夕食時など会話があると思います。現代は仕事をしながらなので、会話の時間は限られると言われていますが、会話のない日はないはずです。そのときにお子様は今日の学校での様子や友達のことなどいろいろ話してくれることがあります。その時に、親としては気になることがいろいろあると思います。内容的なことは各家庭の教育方針でもあるので、ここでは、内容ではなく話し方など表面的なものです。よく、「主語を言いなさい」とか「それがどうしたの」とかという言葉を言っていませんか。子どもは話が下手なものです。うまく通じなくてイライラすることもあるでしょう。そんなときに出てしまう言葉です。しかし、子供の立場としては、前者を言われると、怒られている感じがして、後者だと関心をもたれていない、バカにされてると感じてしまいます。
コーチングで大事なのは、相手の中にすでにあるもっとも有効な答えを質問によって引き出すことです。答えをこちらが先に教えてしまってはいけないのです。
質問についても、オープンクエスチョンというものとクローズドクエスチョンという2種類があります。クローズドクエスチョンというのは「はい、いいえ」で答えられる質問です。オープンクエスチョンはそれ以外です。私が重視するのはオープンクエスチョンです。
「今日、公園で遊んで楽しかったよ。」「主語を言いなさい。」ではないのです。
「今日、すごいポケモンをゲットしたよ。」「ふーん、それがどうしたの。」でもないのです。
「今日、公園で遊んで楽しかったよ。」「よかったね。誰と?」「同じクラスのあやちゃんと。」「まさか、あんたあやちゃんのこと好きなんじゃないの?」「うん。」
おしい。オープンクエスチョンは5W1Hです。だから、「誰と?」という質問はよかったのですが、「好きなんじゃないの?」という質問は失敗です。
「今日、公園で遊んで楽しかったよ。」「よかったね。誰と?」「同じクラスのあやちゃんと。」「あやちゃんて、かわいい子だよね。お母さんはあやちゃん好きだな。あんたはどう思ってるの?」「えー、好きだよ。」「じゃあ、好きな子と遊べて楽しかったね。公園でどんなことしたの?」「うーんと、あのね、あのね、ブランコ乗ったり、滑り台ですべったりしたよ。」「そっかー。ケガしないようにね。ゲームも持って行ったけど、何のゲームしたの?」「あー、あれさあれ、ポケモン。」「あやちゃんもポケモンやるんだね。一緒にやったらいいことあるんでしょ?」「そう、今日はね、あのね、すごいポケモンをゲットしたよ。」「何ていうポケモン?」「ピカチュウ。」「ピカチュウかー。どうすごいの?」
という質問ができれば、会話がはずみます。なぜなら、頭ごなしでない、5W1Hの質問をしているからです。オープンクエスチョンはやってみると意外と難しいです。日々の会話の中で実践するしかありません。頭ごなしでない以上、親は独裁者にはなりません。悪いことをしたときだけガツンと怒ればいいのです。普段はひたすら質問です。悪いことをしたときも、何がどうして悪いのかをわからせるためにもオープンクエスチョンは使えます。それは別の機会に説明しましょう。
●命令口調について
勉強を見ていると、「なんでこれができないの」「なんでこれがわからないの。」という言葉を言ってしまったという親御さんは多いのではないでしょうか。たしかにオープンクエスチョンです。でも、現実は責めているので、ものすごく狭い質問になってしまっています。やさしい口調でも結局は同じことです。子どもの理解が悪いと親は怒りながらその問題の解き方をさらに説明し、答えまで出して、「ほら、こんなに簡単なのに、なんでわからないの。」と繰り返してしまいます。子供からしたら、怒られたけど、とにかく怒られてるという意識が前面に来てしまい、説明を理解しようという努力はできません、怒られてる、どうしようどうしようと思っている間に、わからなかった問題の答えが出ているので、とりあえずこの答えを問題集に書いておこうとなるのです。親は「じゃあ、さっきのやり方で次の問題を解いてごらんなさい。」となりますが、子供はできないままです。イライラはさらに大きくなり、悪循環ですね。
ここでよくない部分は、子供にイライラ、怒りが伝わっていること、答えを出してしまったことです。
イライラや怒りを伝えないためには、言葉を変えなければなりません。「お母さんの説明じゃわかんない。」「じゃあ、もう一回説明するから、わからないところで止めてね。」とか、「この問題難しすぎてわからない。」「どこがわからないか説明できる?」「できない。どこがわからないかもわからないんだよ。」「じゃあ、問題を最初から口に出して読んでみて。」「ごにょごにょ。」「よし、わからないところ探しをするよ。最初のこの部分はOK?」
のように、何がわからないかをはっきりさせる質問をしていきましょう。
お子様が、なんとか自分でやってみようとなったときは、自分で答えまで出させてください。合っていれば、「もう一人で大丈夫だね。」となるし、間違っていれば「考え方はできてるはずだから解き直したらできるよ。もう一回やってみよう。」と声かけをすればいいのです。
●他のお母さんや先生に悪く言っていないか
サッカーの監督のテレビの例でも分かるように、自分の悪口を人伝えに聞くというのは、直接聞くよりもダメージの大きいものです。もしかした、お子様は学校で友達に、「お前、家でまったく勉強しないんだってな。うちのお母さんが言ってたぞ。」とか、先生から、「君は家ではテレビとゲームばかりだとお母さんが言っていたよ。それだから今日のテストでひどい点数をとったんじゃないのか。」などと言われているかもしれません。子供は本当に嫌なことは親に報告しませんからね。そして、学校の先生だって人間です。
今回は長くなってしまいました。次は補足の意味も含めて、やる気を維持するための言葉遣いについて見ていきましょう。
コーチングは心理学を応用するとは以前に書きましたが、直接関係なさそうでも、これはテクニックが満載です。営業やサービス業の人には仕事術としてお勧めですし、そうでなくても、メンタリストやコーチングってこういう観点で見てるんだ、という発見があるはずです。
3.やる気スイッチなどない
ある塾が流行らせた言葉ですね。わが塾はお子さんのやる気スイッチを入れます、という広告文句で、覚えやすくてとてもいい広告効果があったのではないでしょうか。それ以降、多くの保護者の方との面談でも、うちの子のやる気スイッチはどこなんでしょう、先生が入れてくださいよ、というような話はよく聞かされました。そのたびに、やる気スイッチなんかあったら、面白くないじゃないかと思いながら聞いていました。人間は人間だから面白いのです。さらに言うと子供は子供だから面白いのです。スイッチでやるやらないが決まるならそれはロボットです。うちの子のやる気スイッチはどこでしょう、なんて言っているお母さんがいたら、このお母さんはわが子をロボットと思っているのかなと思ってしまいます。
わが子をロボットにしたくなければ、やる気スイッチなどないということを理解してください。やる気はスイッチのようにコロコロと出たり出なかったりするものではなく、一度やる気のきっかけができたら、あとは維持していくのです。お子様が塾に通うような年齢のお父さんお母さんは、会社の中では部下を何人か抱える中間管理職に就いているのではないかなと思います。そうでない方もいるでしょうが、部下のやる気を引き出すには?という本を読んだり研修を受けたりする機会があるかもしれません。それは子供だって同じことです。スポーツのコーチも同じです。モチベーターという言葉がありますが、モチベーションを与え続ける存在です。モチベーションは日本語では「やる気」と訳されて使用されていますが、本来は「動機づけ」という意味です。勉強する動機を与え、それを維持していくのがモチベーターです。ここではコーチング技術を使って、みなさんがモチベーターになれることが狙いです。
ということで、わが子に「勉強しなさい」と言わなくてもできる子に育てていくためには、まずは「動機づけ」が必要ということです。そしてその後に「やる気の維持」をしていくのです。
しかし、それではいつまでも親の手のかかる子です。それは目的ではありません。あくまで目的は子供が自らやるようになるということなので、いつまでも手はかけられません。つまり、最終目的は、動機づけもやる気の維持も、子供本人が自分の力でやるということです。しかし、子供は楽な方に行ったり間違った方向に進むこともあるので、軌道修正で親が声かけをするということになるのです。その声かけがコーチングです。
次からは、動機づけをする→やる気を維持させる→親の手を離す
という手法について考えていきましょう。
- 作者: 伊藤守
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